2013年3月14日木曜日

メンバーが語る学習室 稲垣拓さん


―「とどろき・よこはま学習室」活動報告第2弾。今回は、学習室メンバーの中でも古株の1人、慶應大学法学部政治学科2年生の、「たくぼー」こと稲垣拓さんにお話を伺います。稲垣さん、よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

―今ご紹介した通り、古株とのことですが。

僕は学習室が発足した次の月(20115月)の末から活動に参加させていただいたので、もう1年半以上になりますね。「とどろき」の方を中心に行っております。全体の中では「教務係」をやらせていただいて、普段の学習を中心に子供たちのことを見たり、学習室の運営に関わったりしています。

―そんな稲垣さんが活動に参加したきっかけは何だったんですか。

初めてこの活動を知ったのは、日吉の学事前でチラシを見た時です。でも、まだ一人暮らしを始めて間もない頃だったので、自分の生活のことで頭がいっぱい。興味はあったけど、チラシは元の場所に戻しました。
それから半月ぐらいして、少人数授業の先生が、授業中に同じチラシを配ったんですよ。それがきっかけになりました。でも、貰ってからも、迷いはありましたよ。

―迷いというのは…?

「ボランティアをできる資質があるのか」っていう迷いです。兵庫県出身の僕は、3.11は肌では感じませんでした。だから、被災者の気持ちが分かる気がしなかった。その上、接するのは子どもっていう、最もデリケートな存在じゃないですか。正直、接し方が分かりませんでした。

―それでも参加されたのは何故ですか。

不思議なもので、チラシを貰った2日後ぐらいに、「とにかく行動してみよう」と思ったんです。悩んでいてもしょうがないから、やってみようと。今だってこんな思い切った決断なかなかしないのに()、あの時そう思えたのは、何かの縁だったのかもしれませんね。

―なるほど。ところで、普段の活動はどんな様子ですか。

普段は、勉強の為に机と座布団をセットして、子供たちが来たら順次時間まで教えていく、時間が来たら終わりの会をして後片付けという流れです。

―教える時間って、全部で2時間ぐらいありますよね。

それをどう使うかが問題ですね。2時間ぶっ続けは集中力が持ちにくい。だから適度に休憩を入れます。以前は時間割を作ろうという話も出たんですが、結局11人に合わせているとタイミングもバラバラです。教えている子に合わせて対応します。

―活動中の雰囲気はどうですか。

すごくイイですよ! 僕はホントに好きです。何というか、変な緊張感がない。和気藹々とした雰囲気の中で勉強できるのは、子供たちにとってはいいんじゃないかなと思ってます。

―でも、緊張感がなさすぎるのも問題じゃないですか。それに、休憩のタイミングがバラバラだと、騒がしくなっちゃいますよね。

確かに、そのことは以前メンバーからも指摘されたことはありますし、僕自身疑問に思うこともあります。でも、僕らの目的が「勉強を教えること」だけでなく、「居場所を作ること」でもあるので、むしろ多少賑やかな方がいいかなと、今は考えています。

―居場所、ですか。

避難してきている人たちにとって一番の問題は、コミュニティの問題だと思うんです。故郷から離れた場所に、それも不本意で来ているので、どうも馴染めない子が多いみたいです。そういう子たちにとっては、似たような境遇の子達が集まれる場は、少しでもいい居場所になるのではないかと。
普段の活動中は、さっき言ったように賑やかなことが殆どなので、僕ら自身もそのことに気付かなかったり、忘れてしまったりすることが往々にしてあります。でも、彼らが背後に抱えているものにまで目を向けないと、本当の意味での活動は難しい。僕も人の気持ちを汲み取るの下手なんですけど、折に触れて思い出すようにしています。

―「学び」というと頭を使って、「居場所」というと心を使う感じがしますね。

正直言って、その2つを両立させるのはかなり難しいです。すぐにバランスが崩れてしまう。だから、普段活動をしながら、時々振り返ることが大切ですね。ただ、ね…

―どうしたんですか?

いや、子供たちにとって居心地のいい場所って、僕らにとっても居心地良かったりするんですよ。だから、ついつい僕が活動を楽しんじゃって、活動目的そっちのけになりかけちゃう() 自分にとっても良いものなんで、反省の目を忘れそうになるんですよね。

―逆に言うと、それぐらい魅力的な場所が仕上がるってことですよね。

そうですね。最近では、「あ、コイツ楽しんでるな」と思える子供も増えていて、それがまた嬉しいです。それも全部含めて、僕は学習室の活動が好きですね。

―そろそろ後半になりますが、稲垣さんが活動を通じて学ばれたことを教えていただけますか。まず、震災関連でお願いします。

さっき挙げた居場所の問題もそうですし、子供たちの情緒の問題もそうですけど、僕が震災について持っているイメージ、知り得た知識の半分以上は、この活動を通じて学んだ気がします。
「教務係」という役職にしてもそうですけど、元々僕は教育に関心のある人間で、被災者支援よりそっちの方を優先して考えてきた所があるんです。参加したての頃なんかは、子供たちについても、被災者というよりは、「とにもかくにも逃げてきて、経済的に困窮している人」というイメージを持っていて、格差社会の問題に結びつけて見ていました。

―ということは、被災者という観点ではあまり見ていなかった…?

恥ずかしい話ですが、そういう所がありました。それが変わったのは、つい最近のことです。他のメンバーと話をしたり、代表の鈴木さんから子供たちの様子を聞いたりするうちに、震災と言うのが、他の社会問題と単純に結びつけて考えてはならない、特別な問題なんだと気付くようになったんです。
それを分けるポイントは、子供たちが負っている、目に見えない傷なんだと思います。この傷は、既に言ったように、なかなか僕らの側も気付けない。だから、しっかり見ていかなければいけないんだと思います。
震災関連でもう1つ言うべきことがあるとしたら、「震災は東北だけの問題じゃない」ってことですね。

―と言いますと?

マスメディアの多くは、震災の問題を東北の問題にしてしまう。勿論、東北の問題は重大な問題です。ただ、1つ言えるのは、僕にとっては目の前の問題が、よりリアルな震災の問題なんです。けれども、そこにはなかなかスポットが当たらない。それがどうにも歯がゆいんですよ。だから、これから情報発信もしていかなければいけないと感じています。

―なるほど。続いて、震災以外のことで学ばれたことは何ですか。

それも、挙げればキリがないような気がしますね。子供たちとの出会い、大学生メンバーとの出会い、どれを取っても学びにつながるものですから。
年頃ということもあって勉強に精が入らない子が多いんで、教えるのは結構今でも苦労します。なんだかんだ言って、勉強の方で効果を上げられなかったら意味がないと思ってますから、そこの工夫は考えます。塾講師の経験や教職課程の授業で学んだことを活かしていこうと、いつも思っています。
メンバーとの関わりの中では、組織としての活動の仕方なんかを中心に、僕も学習してますね() 日常生活の中でモデルにしたいなと思う人に出会うこともありますよ。

―最後になりますが、今後学習室をどのようにしていきたいですか。

今考えていることは2つです。1つは、情報発信を強化すること。僕らの活動について、それから、東京・神奈川に避難している被災者の現状について、もっと周りに伝えていかなきゃいけない、そう思っています。ブログやSNSの活用もそうですが、機会があれば、ワークショップみたいなものに参加して伝えていきたいですね。

―もう1つは何ですか。

子どもたちの打ち込めるものを探すことですね。代表の鈴木さんもおっしゃってるんですが、彼らの中に何か1つでも打ち込めるもの、特に将来につながりそうなものがあれば、と思うんです。そういうものに出会うことで、勉強の方にも成果が出るんではないかと思っています。

―分かりました。今回はどうもありがとうございました。

ありがとうございました。

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